AITCニュースレター

第29号 - 2021年4月

AITC Webセミナー「DXシリーズ」開催中!

昨秋開催されたAITC第11回総会(2020年10月9日オンライン開催)において、ICT(先端ITを包含)の利活用による企業の社会的価値の創出へ貢献することを目指し、デジタルトランスフォーメーション(DX)に関する情報提供や議論等にも取り組むことが重点施策の一つとして決議されました。これを踏まえ、DX分野を主導されている方々をお迎えし、AITC Webセミナー「DXシリーズ」を開催することにしました。

テーマは、 「DX時代におけるソフトウェア/ビジネス/社会のあり方を考える〜役割を超えて、マインドセットを変えて、未来を創ろう!〜 」で、以下のような2パートに分けて開催しています。

<パート1>2021年1月〜2021年4月(6回)
   テーマ:ビジネスと社会をデザインし、構築するためのソフトウェア工学
   対象者:技術者、企業戦略担当、マネジメント

<パート2>2021年4月〜2021年6月(予定)(4回)
   テーマ:日本企業におけるDX推進と実現に向けて
   対象者:マネジメント、企業戦略担当、技術者

対象者は、DXに関心のある方全般ですが、パート1は技術者寄り、パート2はマネジメント寄りとなっています。 現在、<パート1>第5回まで開催済みですが、参加申し込みは常に100名を超え、非常に盛況でした。以下、その内容と様子をご紹介します。

 第1回(1/27(水)) オープニングイベント

第1回は、パート1で第2回から第5回までの「DX時代の新ソフトウェア工学体系」連続講演の講師4人から、それぞれの講演のエッセンスあるいは講演の背景を10分から15分でお話しいただきました。セミナー中に質疑の時間をとることはできなかったのですが、講演中にチャットでいただいた質問・意見や、アンケートで書いていただいた質問・意見は、それぞれの講演の内容に反映したり、回答いただいたりすることにしました。

 第2回(2/5(金))
『DX時代の新たなソフトウェア工学に向けて -SWEBOKとSE4BSの挑戦-』
講師:鷲崎弘宜様(早稲田大学 グローバルソフトウェアエンジニアリング
研究所 所長・教授)

鷲崎先生がリードして進めておられるソフトウェア工学知識体系 Software Engineering Body ofKnowledge (SWEBOK) の改訂についてご紹介いただきました。そのうえで、鷲崎先生たちが進めている、DX時代の価値創造とソフトウェアおよび周辺の関係のあり方 Software Engineering for Business and Society (SE4BS) の取り組みを解説していただきました。 そこでは、ビジネスおよび社会とソフトウェアをつなぐ理論体系を知・情・意という観点で広げて構築するとともに、ビジネス・社会視点の価値駆動プロセスの一例を整理しているとのことでした。

 第3回(2/17(水))
『デジタルビジネスの潮流とアジャイル開発 〜ビジネスとエンジニアの協働チームづくり〜』
講師:平鍋健児様(株式会社永和システムマネジメント 代表取締役社長)

デジタル時代にマッチしたソフトウェア開発手法として広まってきたアジャイル開発について、それが現れてきたビジネス的背景、技術的特徴、事例、などをやさしく解説していただきました。後半では、知識創造企業で有名な野中郁次郎先生の初期の研究「失敗の本質」などにみられる「知的機動力」とアジャイルの関連に言及した後、アジャイルに必須となるコミュニケーションを活性化させるためには「場」作りが重要、ということからリモートでの場作りをどうすればよいかについての考察が展開され、非常に興味深い講演でした。

 第4回(3/12(金))
『より良いモノコト創り、より良い人創りを目指して取り組むべき課題』
講師:萩本順三様(株式会社匠Business Place 代表取締役会長)

SE4BSの価値駆動プロセスの一部を担う匠Methodについて、開発者の萩本様にご説明いただきました。匠Methodはビジネスデザインや業務改革・改善からキャリアデザインまで活用できる方法論ですが、カントの知・情・意を背景として、自分視点となるコンセプトの意、他人視点から視野を広げる情、実現するための知の間のフィードバックループをチームで回してバランスを取る方法論の思考法から説明されました。後半は、意の観点の価値デザインモデル、情の観点の価値分析モデル、知の観点で意と情を分析しフィードバックする要求分析ツリーなどのモデルを使って、ビジネスデザインで起こしがちな問題を解決する観点と手法がまとめられました。終了後の質疑も40分に及び、発表中の『イノベーションはHowからの突き上げ』をきっかけとした、それぞれの立場からのDX・イノベーションの起こし方といった興味深い議論が行われました。

 第5回(3/24(水))
『DX時代のリベラルアーツとしてのアジャイルマインド』
講師:羽生田栄一様(株式会社豆蔵 カンパニーCTO)

働き方も働く内容も大きく位置づけが変わろうとしているDX時代に求められる人材像、アジャイルのエッセンス、トランスフォーメーションのためのパターン・ランゲージ『トラパタ』、DX時代のリベラルアーツについて分かりやすく紹介していただきました。『トラパタ』は、約2年かけて、IPAのDX調査で得られた200エピソードから集約・抽出して練られた24パターンからなるパターン・ランゲージです。「B2 枠を外して考える」「C2 ようこそ失敗」「C8 いつまでも学びたい力」など、トラパタの24パターンを素読(みんなで読み合わせ)をしましたが、短く練られた言葉が心地よく感じました。

今後、4月7日(水)に第6回として、これまでの講師4名とAITC顧問である名古屋大学名誉教授の山本修一郎先生によるパネルディスカッションを開催し、その後<パート2>として講演3回、パネルディスカッション1回を開催する予定です。奮ってご参加ください。

オンライン開催となったITフォーラム2021で、
協働プロジェクトの発表を行いました

2月3日に開催されたITフォーラム2021において 協働プロジェクト『空気を読む家』Finalと題して発表を行いました(プログラムはこちら)。今回のテーマは今までのITフォーラムでの発表の集大成となる「家のDXが実現する安心安全な空気を読む家」で、「家全体」を舞台に「朝の出勤までの多忙な時間」のシーンを題材としました。テーマを元に各部会のリーダを中心に空気を読む家がどのようにして朝の忙しい時間を豊かに、快適に過ごすことを支援できるかを議論し、各部会の知見を活かした成果をまとめ、発表しました。

残念ながら今回の発表はオンライン開催のため、例年セッションの前に用意していたインタラクション性のあるデモをタッチ&トライで参加者に体験していただくことができませんでした。しかし、オンライン開催による効用もまたあり、例年の2倍の以上となる50名の参加者に発表を聞いていただくことができました。

ここからは各セッション発表内容について連携部分を中心にご紹介します。

トップバッターを務めるUX技術部会の発表では今回のテーマをマンガ駆動開発のプロセスに落とし込み、UXの視点で分析し、シナリオをわかりやすい写真を用いて視覚的に紹介しました(下図(左))。

コンテキスト・コンピューティング研究部会の発表ではシナリオを空気を読む家を構成する分散協調エージェントが活用できる知識モデルとして分析し、ドメイン、タスク、コンテキストとして表現した結果を紹介しました(下図(右))。

ビジネスAR研究部会の発表では、UnityとAIPlannerを活用して構築したシミュレーション環境に知識として表現されたシナリオを落とし込む方法について紹介し、実際にシミュレーションが動く様子のデモを行いました。

クラウド・テクノロジー活用部会の発表では、シミュレーション環境で想定されたエージェントについて、今までのITフォーラムでの実証実験の成果を引用しつつ、今回新たに用意したデバイスを用いて物理環境でセンシングできるか検証した結果を紹介しました(下図(左))。

空気を読む家の中心となる空間OSの発表では、空間OSの視点から分散協調エージェントの設計・実装手法としてエージェントの階層構造や人間APIの概念を紹介し、最後に空気を読む家の社会実装には今回の一連の発表のように人間起点、仮想世界起点、実世界起点の3視点での開発手法が必要とまとめました(下図(右))。

以上のように今回の発表は集大成にふさわしく各部会の持ち味を生かしつつ、テーマに沿って協働した成果を発表することができました。

当日の発表の動画や資料は、以下のリンクからご覧いただけます。

参加できなかった人は、是非、発表資料だけでもご覧ください。

いま知っておきたい AITCのできごと

好評を博した「身近になったAI開発シリーズ」が帰ってきます!
2019年1月から2020年1月まで開催した首記シリーズの中でも特に大好評を博した 開発ツール・ハンズオン勉強会! 昨年2月の開催を目前にして、新型コロナ感 染拡大を受け已む無く中止していましたが、この4月15日(木)を皮切りに、オンラインで「シリーズ2」を再開します。 今回は、対象ツールを「Neural Network Console」に絞り、4月の初級編から8月の作品コンテストまで計7回の実施を予定しています。
  • 第1回:4月15日(木) Neural Network Console「初級編」
  • 第2回:5月13日(木) Neural Network Console「Autoencoder編」
  • 第3回:6月10日(木) Neural Network Console「CNN編①」
  • 第4回:6月24日(木) Neural Network Console「CNN編②」
  • 第5回:7月(日程調整中) Neural Network Console「RNN編①」
  • 第6回:7月(日程調整中) Neural Network Console「RNN編②」
  • 第7回:8月(日程調整中) Neural Network Console「作品コンテスト(仮)」
また、「シリーズ2」は、社会貢献活動の一環として、非会員にもご参加いただけるオープンな活動として実施いたします。 開催案内をご参照の上、奮ってご参加ください。

おすすめの図書をご紹介 「よん得」(その4)

こちらのコーナーでは、AITCの部会等でも活用し最新の技術が理解できる、 あるいは、みなさまにおすすめの「読んで得になる」図書をご紹介いたします。 前回は、コンテキストコンピューティング部会からのおすすめです。

  1. 「意思決定理論入門」
    • イツァーク・ギルボア 著、NTT出版、2012年6月出版、235ページ、3080円(ソフトカバー版)
    • 行動経済学などで活用される意思決定に関する期待効用理論、ベイズの定理、プロスペクト理論などの基礎理論をわかりやすく説明する書籍です。人の意思決定についての考え方が理解でき、その傾向がわかるようになることで、自身のより良い意思決定につなげるための参考になります。
    • その他の参考情報はこちらから

  2. 「 「意思決定」の科学 なぜ、それを選ぶのか」
    • 川越敏司 著、講談社、2020年9月出版、264ページ、1100円(新書版)
    • 意思決定に関する代表的な理論の変遷を15の実験を通して学ぶことができます。Web(Scratch)を使って実験が行えるようになっていたり本文では解説しきれなかった深い内容(補遺)が特設サイトで公開されていたりして理解が進むよう工夫されています。「意思決定理論入門」より平易な文体で読みやすいです。数式がいくつか出てきますがそれを一つひとつを理解しなくても「理論の気持ち」が伝わると思います。巻末には読書案内があるので、興味のある分野へ次のステップに進むことができます。
    • その他の参考情報はこちらから。(※ 本書のAmazonのKindle版(電子書籍)はタイプセッティングが有効になっていないのでご注意ください。)
  3. 「 DXの基礎知識 具体的なデジタル変革事例と方法」
    • 山本修一郎 著、近代科学社Digital、2020年10月出版、254ページ、3520円(オンデマンド(ペーパーバック)版)
    • 「2025年の崖」で有名な「DXレポート」を作成した経済産業省のデジタルトランスフォーメーションに向けた研究会の委員でありWGの座長である山本先生によるデジタルトランスフォーメーションの基礎知識に関する書籍です。国内外の最新の研究成果や事例を引用した内容となっており、あまた存在する「でぃーえっくす便乗本」とは一線を画しています。冒頭で「デジタル企業をどのように定義するのかという声がしばしば聞こえてくるが、それができないような企業はDX時代には消滅していることだろう. 何としても定義しなければならないことを認識すべきである」と喝破しているように、全体を通してたいへん歯切れが良いです。企業の規模を問わず、経営層のみならずデジタルトランスフォーメーションの真髄を理解したい全ての方におススメします。
    • その他の参考情報はこちらから。

次回もお楽しみに。