AITCニュースレター

第20号 - 2019年1月

2019年新春のご挨拶

明けましておめでとうございます。AITC のイメージキャラクター『ハルミン』です。いつもAITCに温かいご支援、ご協力をいただきありがとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。

すでにご案内の通り、昨年10月1日に「第9回総会&第8期成果発表会」が開催されました。総会では第8期活動&収支報告、第9期活動&予算計画および役員選任の全議案が全会一致で承認され、今期の活動を本格的に開始しました。 (総会議案書はこちらをご参照ください)。

設立9年目となる今期は5つの部会名であるクラウド、コンテキスト、AR、UX、NUIの各技術にIoT、ROS、セキュリティ、AI、ビッグデータ、ブロックチェーンはもとより新たに量子コンピュータを加え、今もっとも注目度の高い技術分野に取り組んでまいります。

AITCは新しい技術にワクワクし、調査・研究・検証を楽しみながら、失敗を恐れず挑戦できる場!何が使えるのか、何が残るのかを見極めながら、技術と知見を広く発信していきましょう。

総会記念講演「量子アニーリングが示す社会の未来像」
〜東北大学大学院准教授 大関真之様〜

量子力学(quantum mechanics)とは、「電子や陽子,中性子などの素粒子,さらにそれらより小さい基本粒子のレベルで諸現象を統制する理論体系(世界大百科事典 第2版、平凡社)」を指します。量子力学では、諸々の現象は異なる状態の重ね合わせ(superposition)であり、観測によって一つの状態がある確率で決定される性質をもつとされています。量子力学は既に色々な技術領域への応用が進んでおり、IT(情報処理)の世界でも量子情報科学(quantum information science)として確立されつつあります。この量子情報科学に基づく計算機が量子コンピュータ(quantum computer)です。量子コンピュータを用いると、従来のコンピュータでは膨大な計算量が必要となり、解くのが困難であった特定の問題を高速に処理できるようになるといわれています。2011年にカナダのD-Wave Systemsが世界初の商用量子コンピュータを発表して以来、IBM、Google、Microsoft、富士通といった大手IT企業も本格的に開発や実用化に乗り出しているといったように、ここ数年IT業界で急激な盛り上がりを見せつつあります。AITCでは、このような潮流を踏まえて、次期活動対象分野に、量子情報理論や量子コンピュータを研究対象とする「量子コンピューティング」を追加しました。 今回の総会記念講演は、この「量子コンピューティング」をテーマに、量子計算技法のひとつである「量子アニーリング」の研究者である東北大学大学院大関真之准教授に「量子アニーリングが示す社会の未来像」と題しご講演いただきました。

大関先生からは、まず初めに「量子コンピューティングの概念」の解説をいただきました。量子コンピュータでは、量子情報科学に基づき、1ビットが同時に「0」と「1」の両方になりうるといった量子ビット(quantum bit.Qbitと略されることが多い。)をそのままの状態(量子ゆらぎ、または量子もつれ(quantum entanglement))で扱うことにより、従来のコンピュータと比べて1量子ビットごとに2倍の性能を引き出すことが可能となるとのことです。

続いて、「量子コンピュータの分類・進化の歴史やこれからのロードマップ」「量子コンピューティングの可能性と現時点の実力(性能)」について紹介いただきました。量子コンピュータには複数の方式が存在し、そのうちの一つが大関先生の研究対象である「量子アニーリング(quantum annealing)」です。こちらの方式はD-Wave Systemsの量子コンピュータにも採用されていますが、こちらのマシンは極低温下での超伝導集積回路により、量子ゆらぎを扱うことを可能とする物理構造であることの説明もあり、実はハードウェア好きが多いAITCのメンバーを始めとする聴衆が真剣に聞き入る一幕もありました。現時点の実力や今後の可能性については、Googleが、量子ビット数が49以上になると、従来のコンピュータ(スーパーコンピュータ含む)では計算不可能であった問題が解決可能になるといった「量子超越性(Quantum Supremacy)」の実現について提唱している一方で、RSA暗号の解読といった特に膨大な計算量が必要となる問題については、1,000以上の量子ビットが必要となる等、必ずしも近い将来に完全な社会普及がなされるとは限らないといった示唆を述べられていました。

最後に、「実際の活用事例」の説明や紹介に加えて、カナダのD-Wave Systems社が販売している超伝導量子コンピュータD-Waveマシンのクラウドサービスを用いた量子アニーリングの実演を見せていただきました。グラフィカルなユーザーインターフェースの操作によって、従来のコンピューティングでは理論上何万年もかかる処理も、数分で完了してしまうといった、まさに未来の姿を目の当たりにすることができました。

筆者の、本講演を聴講した感想は、「現在の量子コンピュータや量子コンピューティングは恐らく1960年代のメインフレームに該当するのではないか。」といったものです。昨今の社会の少子高齢化や政府の財政悪化の着実な進行を鑑みるに、筆者は30〜40年後も働き続ける可能性が高いですが、ちょうどその頃に「量子コンピューティング革命」が起こり、業務やちょっとしたプライベートの用事(町内会やボランティア活動、地元のイベント運営等における役割分担も量子コンピュータが得意とする「組み合わせ最適化問題」に該当)でも、今のオフィスソフトやアプリのように気軽に量子コンピューティングが扱えるようになるのではないか。そんな将来像が、頭に浮かびました。

執筆:AITC ビジネスAR研究部会リーダー/運営委員 大林勇人((株)NTTデータ経営研究所)

いま知っておきたい AITCのできごと

女子会&シニアの活動発表会を開催
12月15日にIT女子プログラム(女子会)およびシニアプログラム(シニア)の2018年の活動発表会を実施しました。

女子会は、音声と画像の機械学習をターゲットとして、「クラウドで利用できるAPIの機能」を調査した結果や「自分の仕事でどう使えそうか?」についての検討結果を報告しました。まだまだ技術的に解決できていない事が多く、残念ながら実装まではできませんでいたが、「機械学習が自分自身の生活にどんなメリットをもたらしてくれるのか?」という具体的な内容でした。

シニアは、IoTをターゲットとして4つのチームに分かれてプロトタイプ開発までを行い、無事に全チームのデモが制限付きながら動作しました。実は、シニアのデモの4つ中3つは音声認識・感情分析・画像解析のクラウドAPIを利用しており、「機械学習のユーザーインターフェイスとしてのIoT」として機械学習を活用するシーンを広げるヒントになったと思います。

女子会とシニアは、2019年2月から次の活動に入ります。女子会は、現在の活動の深堀と、デモ開発の着手を行っていきます。 シニアは、前回と同じく入門からリスタートし、1年間でデモ開発までを目指します。 2019年は開催日が第2土曜日へ変更になるので、スケジュールの都合で参加できなかった人も、是非、ご参加ください。
協働プロジェクト『空気を読む家』をソフトウエアジャパン2019にて提言します
2019年2月5日に開催されるソフトウエアジャパン2019 ITフォーラムセッションにて、協働プロジェクト『空気を読む家』の紹介します。今回は、『空気を読む家のキッチン』について、AITCで開発中のユーザーエクスペリエンス(UX)デザインプロセスであるマンガ駆動開発の手法による課題分析、実証実験の結果をご紹介します。さらには、新たに明らかになった課題に対するコンテキストコンピューティングによる課題解決アプローチをご紹介します。奮ってご参加のほど、よろしくお願いいたします。
参加方法・参加申込は、情報処理学会のHPをご参照ください(申込締切:2019年1月22日)。